事例(1)盗撮行為、迷惑防止条例違反事件
事例:相談者は、一部上場企業の社員ですが、北海道に出張している際、街中でつい出来心で携帯していたカメラで女子高校生のスカートの中を盗撮しました。これを周囲の人に見つかり、警察に突き出されてしまいました。その後留置され、検察庁において処分保留で釈放されました。相談者にはどのような犯罪が成立するのでしょうか?また、相談者は千葉県在住ですが、やはり北海道の弁護士に依頼をすべきなのでしょうか?
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回答:
1.女子高校生に対する盗撮行為は、いわゆる迷惑防止条例によって禁止されています。正式には、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といいます。この迷惑防止条例は、各都道府県に制定されています。盗撮行為については、ほぼ全ての都道府県の迷惑防止条例によって禁止されています。ただ、法定刑に微妙な違いがあります。盗撮行為は、不特定多数の人が被害に遭う可能性が高いこと、また、盗撮行為により撮影された写真等が不正に流通し、被害が拡散する恐れもあることから、その刑事責任は極めて重いと考えられています。したがって、厳格な取締りがなされており、その処罰も厳しくなる傾向にあります。
本件では北海道の迷惑防止条例が適用されます。北海道迷惑防止条例2条の2第2号では、「衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。」が禁止されております。そして、これに違反した場合には、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」、常習性が認定され場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」と規定されています。従って、本件相談者の行為は、北海道迷惑防止条例違反の犯罪となる可能性があります。
2 次に刑事処分の手続きについて、説明します。
刑事事件の捜査の手続きとしては、逮捕勾留など身柄を拘束しておこなう強制捜査と犯罪者の任意の出頭を前提にした在宅捜査の大きく分けて二つの手続きがあります(刑事訴訟法197条、198条)。いずれの手続きになるかは、捜査機関が当該事案の重大性、常習性、逃走、罪障隠滅の恐れなどを総合的に考慮して判断します。
盗撮行為の場合、被害が軽微であれば、在宅捜査になる可能性があります。ただ、常習性があると判断された場合、住所が不定の場合、前科がある場合などは、強制捜査になります。一旦在宅捜査となった場合でも、逃走したり、出頭に応じなかった場合は、逮捕され強制捜査になることがあります。
本件の場合、在宅捜査の扱いになっていますが、捜査機関が、相談者に前科がないこと、反省の姿勢を示していること、住所が明確であること、常習性があるとは判断できない事などの事情を考慮したものと考えられます。ただ、盗撮行為については、厳しく処罰をする傾向がありますので、今後事態の進展によっては逮捕の危険性はあります。捜査機関の出頭要請には素直に応じて捜査への協力の姿勢を示した方が良いです。
3 捜査段階での被疑者の弁護活動として重要となるのは、被害者との示談交渉です。示談が成立すれば不起訴処分となる可能性が格段に高いからです。
そこで、できるだけ早く弁護士に起訴前弁護を依頼すべきでしょう。事実上、被疑者本人又はその関係者による被害者との示談交渉は困難です。被害者は盗撮していた本人やその関係者とは会いたくないと考えるでしょうし、検察官の最終処分まで示談交渉を終了させなければならないことから検察官との交渉も必要になりますので、弁護士以外では事実上不可能です。 また、被害者の住所などの個人情報について、被害者側の意向もあり警察、検察は被疑者及びその関係者には公開しないのが原則ですが、弁護士であれば、職務上の守秘義務を前提に、少なくとも検察官は被害者の個人情報の提供に協力してもらえます。
次に、被害者との示談交渉の内容について説明します。
まず、被疑者及び被疑者の配偶者、両親などの謝罪の文書を作成して弁護人を通して被害者に提出します。
そして、被疑者の真摯な謝罪の意思を客観的かつ明確に示すために、示談金を提供します。示談金の相場としては、被疑者に経済的な制裁を課するという意味で罰金の金額くらいが相当と考えられます。一般的には30万円以上、常習の場合には50万円以上と考えられます。ただ、被害者との示談を得ることは極めて重要ですから、被害者の対応などから多少の金額の増加もやむをえないと考えます。
そして、被疑者及びその関係者が被害者及びその関係者との接触をしないことを保証するために接近禁止の誓約保証書、被害者側の情報不開示の誓約書を作成し提出します。
万が一、被害者との示談ができなかった場合は、示談交渉の経緯、示談が成立しない理由を検察官に対し説明します。そして、被疑者が作成した謝罪文等を検察官に提出して被疑者の謝罪、反省の意思を証明します。
また、被害者に示談金を受けとってもらえない場合には、代わりとして示談金の供託をする方法があります。被疑者の住所さえ判明しない場合や被害者が多数の場合には、各弁護士会や赤十字などの公共機関に贖罪寄付をするのも手段の一つです。
4 このような場合には、早めに刑事弁護に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士の選任に関して、北海道の犯罪であっても、全国のどこの弁護士会に所属している弁護士でも依頼をすることはできます。弁護士は、その職務の範囲に地域的な限定はありません。全国どこでも弁護活動ができます。
弁護士に依頼をする場合、弁護士との相談、打ち合わせ、報告連絡を密にするためにも、自分の住所に近い法律事務所の弁護士に依頼された方が便利でしょう。出張等の費用は確かにかかりますが、それはやむをえない必要経費とお考えいただいた方が合理的であると思います。